Roudinesco, Elizabeth, Our Dark Side: A History of Perversion, translated by David Macey (Oxford: Polity Press, 2009).
ルーディネスコは、フランス革命期の女性の政治運動家で精神病患者の生涯を描いた『革命と狂気』の著者として知っていた。歴史学教授だというが、著作では必ずしもオーソドックスな歴史学の洞察を見せる学者ではなかった。その彼女がPolity から『倒錯の歴史』を書いたというので、あまり期待はしていなかったが、目を通してみた。
予想が当たった部分と外れた部分があって、全体に良い本だったという印象を持っている。予想が当たった部分というのは、歴史学の書物としての質の問題である。この書物全体として、中世から20世紀までをカバーしている本なのに、数えられるほどの倒錯者しか論じていないし、分析されている資料や二次文献はごく少ない。とても「軽く」書いた本である。しかし、失礼な言い方だけれども、予想が外れた部分というのは、それにも拘わらず、とても的確なことを言っているということである。たとえば、これはル・ゴフの引用だけれども、「キリスト教徒の身体は、生きているときも死んでいるときも、栄光の身体を待ち望んで存在している」などという台詞は、とてもエレガントで的確な洞察だと思う。本格的な研究書でも概説書でもないけれども、読むととても勉強したような気になる書物である。後半に、ナチスや現代のテロリズムについての評論もついていて、このあたりが、はたして Perversion という枠組みで論じることに意味があるのか、よくわからない。本の表紙が、圧倒的におしゃれなのも、ちょっと得をした気になる(笑)