菊地暁「<ことばの聖>ふたり―新村出と柳田国男」横山俊夫編『ことばの力―あらたな文明を求めて』(京都:京都大学出版会、2012), 3-36.
いただいた論文を読む。「広辞苑」の編者として著名な新村出と、民俗学を作り上げた柳田国男の二知の交流と共有について、両者の書簡と出版された作品を縦横に組み合わせて論じた、非常にすぐれた研究であった。
いただいた論文を読む。「広辞苑」の編者として著名な新村出と、民俗学を作り上げた柳田国男の二知の交流と共有について、両者の書簡と出版された作品を縦横に組み合わせて論じた、非常にすぐれた研究であった。
京都大学の言語学の教授であった新村と、民俗学を開拓する運動を展開させていた柳田の間には、興味深い関係があった。柳田にとっては、京都大学は民俗学の発展にとって期待するべき知的拠点であり、新村には雑誌への寄稿をたびたび依頼していた。新村は、この寄稿の要請にはあまり応えることなく、柳田が気を悪くすることすらあった。また、知的な視点においても、規範的で規則を重んじるこれまでの日本語研究より、現実の言葉の歴史的な変遷を重んじる新村の態度は、民俗資料を採集するという柳田の方法と共鳴していた。両者はまた方言への興味も共有し、言葉が変遷するダイナミックなものであるととらえていた。両者は「生きている言葉」といえるものに関心の中心をおいていたのである。