Secord, James A., “Knowledge in Transit”, Isis, 95(2004), 654-672.
2004年に行われた、アメリカ、イギリス、カナダの科学史学会が合同で行った大会でのプレナリースピーチを原稿にしたもの。柔らかいユーモアがちりばめられ、決して力まないで大きなヴィジョンを描こうとする、イギリス風の話し方とシコード先生の個人的な特質とが感じられるプレナリーである。
2004年に行われた、アメリカ、イギリス、カナダの科学史学会が合同で行った大会でのプレナリースピーチを原稿にしたもの。柔らかいユーモアがちりばめられ、決して力まないで大きなヴィジョンを描こうとする、イギリス風の話し方とシコード先生の個人的な特質とが感じられるプレナリーである。
「移動する」知識というタイトルの通り、科学を、「知識を伝えること」(コミュニケーション)として捉えることを提唱している。科学は、基本的にコミュニケーションであり、講義、手紙、手稿、書物、雑誌、画像などは、すべて知識を移動するマテリアルである。この知識を移動させる歴史上のパターンを取り出す試みは、シコードやケンブリッジの学生たちをはじめ、多くの科学史の研究で主題的に取り上げられており、このレクチャーは多くの研究を挙げている。こういった知識の移動についてのパターンの理解が深まると、科学史の「ビッグ・ピクチャー」に歩みを進めることができるという。この「ビッグ・ピクチャー」というのは、20年ほど前からのイギリス科学史の世界でよく現れる標語で、時代、地域、主題、イデオロギー(新左翼やフェミニズム)などによる断片化のマイナス面が出ていて、それを乗り越えるにはビッグ・ピクチャーが必要だという考えである。シコードは、このビッグ・ピクチャーへの手がかりとしての「移動する知識」の主題を概観したペーパーである。肩の力を抜いて他の多くの学者の仕事を評価する一方で、たとえばブルーノ・ラトゥールとは距離をおいた批判をしているなど、とても役に立つペーパーだと思う。