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Channel: 身体・病気・医療の社会史の研究者による研究日誌
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『プラシーボの治癒力―心がつくる体内万能薬』

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Brody, Howard, ハワード・ブローディ『プラシーボの治癒力―心がつくる体内万能薬』(東京:日本教文社、2004)
プラシーボについて入門的な考えを知る必要があって、目についた書物を読んだ。とてもよい本だったと思う。

20世紀の科学的な医学の上昇は、かえって暗示などに基づいた「プラシーボ」についての議論を盛んにした。20世紀後半から二重盲検の臨床試験が定着すると、プラシーボはむしろその本来の尖鋭な意味を逆に目立つ存在となり、「作用がない」「作用が非特異的である」という言葉で片付けてすむ現象ではなくなった。ブロディが言うには、プラシーボ反応は、「治療の場で、人がなんらかの出来事や物に付与したシンボルとしての意味が原因となって、からだ(あるいは一体としての心とからだ)に送る変化」であり、プラシーボとは、医学研究の場では偽薬であり、治療の場では、シンボル的な意味の力だけでからだに作用することができるとの確信のもとに、患者に与えられる薬品や処置のことである、という。そして、これは、もちろん倫理にもとることがない、嘘偽りのないコミュニケーションを築く道が開けてくる。特定の方法で患者とコミュニケーションをとることが治療の助けになるなら、治療者がそのことを率直に患者に言っていけないわけはない。

とても説得力がある面白い議論である。いわゆる人類学者がバイオメディシンと呼ぶものの過剰な支配から距離をとり、治療の場においてプラシーボを利用できる倫理的な空間を切り出そうとしている。日本の医師がこれに従うかどうか知らないが、こういう知的操作を通じて、アメリカ型の医師―患者関係が、その倫理的な正当化とともに、世界の各地に輸出されるのだろうな。

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