『海辺のカフカ』
村上春樹のノーベル賞のお祝いに読もうかと思って買った。結局ノーベル賞は取れなかったけれども、それでも楽しく読んだ。
基本的な構成は、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』にとても良く似ていて、二つのストーリーが交互に語られながら独自に進行して小説の世界が展開していく。二つのストーリーは、静的で内省的な世界と、動的でコメディ性がある世界の二つであり、登場人物も、彼らの人柄も、記述のトーンも対照的で、二つの別の小説を読んでいるかのような印象を抱かせる。静的な世界のほうは、主人公が家出した15歳の少年ということで、やはり15歳の少年としての世界が重要になり、重要な人間関係は父親や母親などの家族とその記憶であり、生硬と言ってもいい理論性が濃厚で、セックスのほとんどは夢精である。それに対して動的なほうは、「頭が弱いナカタさん」を中心に、ナカタさんを東名高速の富士川サービスエリアで拾ったトラック運転手のホシノちゃんや、ホシノちゃんに女を紹介するカーネル・サンダースなど、鮮明で楽しいキャラクターが登場して大活劇をする。私が知っている作家で言うとディケンズの小説を思わせるし、台詞回しも楽しくて、カーネル・サンダースの「お前、学校に行ったのか」という台詞は伝染しそうな気がするから、大学で使わないようにしないと(笑)