常石敬一『消えた細菌戦部隊―関東軍731部隊』(1993)
関東軍の731部隊(石井部隊)の細菌戦と人体実験が日本人に広く知られるようになったのは、今から30年ほど前の私が高校生の頃だったと記憶している。森村誠一の『悪魔の飽食』がその問題をセンセーショナルに扱っていた。従軍慰安婦や南京大虐殺の問題についての意識も日本人の間に広く共有されて、このような問題に対して、現在とはかなり違う温度差があった時期であった。
関東軍の731部隊(石井部隊)の細菌戦と人体実験が日本人に広く知られるようになったのは、今から30年ほど前の私が高校生の頃だったと記憶している。森村誠一の『悪魔の飽食』がその問題をセンセーショナルに扱っていた。従軍慰安婦や南京大虐殺の問題についての意識も日本人の間に広く共有されて、このような問題に対して、現在とはかなり違う温度差があった時期であった。
常石敬一の『消えた細菌戦部隊』も同じころに出版された著作である。30年前の著作であるから、書き口や研究の仕方などに瑕疵はあるだろうが、それでもプロの科学史家が書いたこの著作は、いまだに基本的な書物であると思う。この文庫版には、米本昌平が書いた優れた解説も付されていて、これが貴重な資料になっている。ここで米本は、1980年代においてドイツでも日本でもほぼ同時に医学の現代史・20世紀史についての視点の転換があって、その過程を通じて優生学の批判をはじめ、戦争と医学の問題が正面から取り上げられるようになった事情を指摘している。
この本が基本的な重要な研究書であることは、その通りである。しかし、細菌戦問題や人体実験にかかわる日本の医学史の成果が、常石の一連の著作で打ち止めというのもさびしいことであると私は思う。もっとひろがりを持った問題であるように思えるのだけれども。