斎藤茂太『茂吉の体臭』(東京:岩波書店、2000)
読みたいと思って読んでこなかった著作である。歌人として著名な斎藤茂吉は、青山脳病院の院長を務めていた精神科医であり、日本の精神病院の院長の中では最も著名な人物であろう。昭和戦前期から茂吉が没するまでの昭和28年くらいまでの様子が描かれ、ドイツに留学して東京で大病院を開業していた精神科の医師とその息子の生活が描かれている。青山脳病院や帝国病院の生活については、斎藤茂吉のもう一人の息子の北杜夫が書いた傑作小説である『楡家の人々』があるが、そこから感じられる茂吉の姿とはだいぶ違うところがある。斎藤茂太が1916年生まれ、北杜夫は1927年で、かなり年が離れた兄弟だから、斎藤茂吉という人物の違う側面をみているのだろう。