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Channel: 身体・病気・医療の社会史の研究者による研究日誌
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新着雑誌 History of Psychiatry

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History of Psychiatry 2013年3月号。論文が6点に古典翻訳と書評が5点。

6つの論文は、まず一つめは北ウェールズの精神病院の症例誌をもとにして、1875-1924年と1995-2005年の二つのコホートにおいて、メランコリー/重度うつ病の研究。死亡率はいずれのコホートにおいても大きな上昇がみられ、後者では自殺がその原因であるが、前者では結核が上昇の原因である(!) がん、心臓病は上昇に関与していない。二つめは、忘れたころにやってくる麦角中毒(ergotism)の歴史の論文で(笑)、この論文の主題はノルウェイ。2部構成の第1編で、古代から17世紀までを扱っている。サガのエピソードや魔女狩りの記述の中から麦角中毒の事例を拾うという。三つめはスウェーデンの精神衛生の研究。優生学と関係があったが、それ以外の側面を検討する論文。四つめはウィリアム・ジェイムズの心霊現象の研究、五つめは、1900年近辺のオランダにおける神経衰弱の研究。医学言説とサナトリウムの症例誌を組み合わせた「テッパン」の手法で、社会文化的な側面とジェンダー論を重ねる。最後の六つめが、面白い主題で、極地探検とアルコールの関係。極地探検ではアルコールの効用が真剣に議論されて、その効用を唱えるものもいたし(酒造会社が極地探検のスポンサーだった)、逆に禁酒の必要を唱えるものもいた。

特筆するべきことは、古典翻訳の企画に非西洋圏の文献が入っていることである。1722年に没したムガールの医師、ムハマド・アクバル・アルズン (Akbar Arzn)の書物から「頭の病気について」という章が訳されているという。ううむ、先を越されたか・・・これは、即刻、呉秀三『私宅監置』の一章を英語に訳さなければならないですね、橋本先生!(笑)

それからもう一つ。エディターのベリオスが「遡及的診断」について論じているエッセイという必読ものが最後に付されている。これは、おそらく、人文社会系出身の歴史学者にとって特に必読だと思う。人文社会系の出身の歴史学者は、病跡学のような手が込んだ遡及的診断をしなければ問題が済むとナイーブに思っている人が多いと思う。私自身もそう思っていたが、Borch-Jacobsen を読んで見解を改めて、この問題は本気になって考えないといけないと思っている。遡及的診断は「私はやらないからいい」とナイーブに思っている人がいたら、Making Minds and Madness を読むといいです。


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