Hustvedt, Siri, The Shaking Woman or a History of My Nerves (New York: Picador, 2009).
著者は、英文学の博士号を持ち、小説などを書く人気が高い文学者であると同時に、共感覚者(synesthesia)であり、また、父親の死後に、人前で話す時に激しく痙攣するようになったという病気の経験を持つ。この経験を生かすと同時に、文学と哲学という人文系の学問と、医学という理系の視点の両者を共存させることができる主題が、神経症の問題である。医学の中でも、神経学、精神医学、精神分析の三者が、それぞれ異なる理解をしているから、全体としては高度に学際的な議論になっている。また、シャルコーやフロイトはもちろん、ジャネなどの精神分析・力動系の医者や、ソ連の心理学者であるルリヤなど、精神医学や神経学の歴史の話題もふんだんに盛り込まれ、現代との重ね合わせも上手にされている。アカデミックではないけれども、個人的なナラティブの要素も入った、とてもすぐれた一般書だと思う。