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Channel: 身体・病気・医療の社会史の研究者による研究日誌
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アンジェロ・モッソ『恐怖の生理学』

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恐怖の生理学
Mosso, Angelo, Fear, translated from the 5th edition of the Italian by E. Lough and F. Kiesow (London: Longmans, Green, and Co., 1896)
著者、アンジェロ・モッソ(1846-1910)はイタリアの生理学者で、トリノ大学の教授をつとめた。Wiki によると、精神活動の際に脈動が変化することを測定することに成功し、現在の脳神経学を支えている測定器具の fMRIやPETの原理がよって立つ原型を作ったという説明がされている。

この書物は一般向けに恐怖という感情を生理学の視点から語ったものである。ときどきギリシアの彫刻の傑作や、レオナルドの絵画論などからも引かれている。どちらかというと散漫な著作だけれども、その中で、進化論が果たしている役割が特に重要であった。ダーウィンに人間と動物の表情の有名な研究があり、そこに人間と動物の恐怖の表情の分析がある。それをうけて、人間における恐怖を、動物と人間が共有している生理学の視点から分析し、それを生存の確保という進化論の視点と結びつけたものである。処女が含羞をたたえて頬を赤らめることは、いくらそれが無垢と純粋の象徴であっても、いくらそれが美しく道徳的に好もしいものであっても、それが生理学上の現象であることには変わりないという意見で始まっている。

生理学系の学者がこういうことを書きたがるのは昔から変わらないのか、それとも、最近ではそういうことを言わなくなったのかもしれない。しかし、現在でも、生物学者は、求められてもいないのにその手の話を始めることが多いのは、生物学者以外の人々は誰でも気が付いていることだと思う。このあたりが、生理学者と生物学者の違いかもしれないし、患者を治療することを目標にしている医学と、その目標を持たない生物学は、やはり大きな違いがあるのかもしれない。

それはどうでもよくて、含羞が生理学的な現象であるということは正しいことだから、19世紀末の猪生理学者がそれを喜んで言うのはいいのだけれども、このトリノ大学の生理学教授がその次に記した冗談の趣味の悪さが、この時代の生理学者が敵意と軽蔑の対象となり、最終的には『モロー博士の島』にはじまる一つの伝統を生んでしまった理由だと納得した。「奴隷市場では、顔を一番赤らめる女性が優れた商品として買われるが、それと同じように、耳を一番赤くするウサギを実験用に私は買い求めた。」

画像は、モッソのエルゴグラフィ。

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