多田鉄之助『蕎麦漫筆』より、「そば尽し」の祝い唄を。明治20年頃までは、年越しの夕方になると、「厄落とし」と称して「厄払い」なる職業が存在した。それを呼び入れると、銭若干と餅を与えるのが通例になっていた。これは「アアらめでたいな」という決まり文句で始め、青物尽くし・魚尽くしなどの面白い文句を早口でいってから、「・・・末は必ず西の海とは思えども、この厄払いがひっとらえ、東の川さらり」という決まり文句であった。この厄払いの用いる文句の型で作成された「ソバ尽くし」がある。
アアらめでたいな。また新玉の新そばに、お祝儀めでたき手打ちそば、親子なんばん仲もよく、めうとはちんちんかもそばで、くれるとすぐにねぎなんばん、上から夜着をぶっかけそば、たがひにあせをしっぽくそば、てんとたまらぬ天ぷらそば、かけかせんへあんかけの、そのごりやくはあられそば、やがてお産のたまごとじ、あつもりおいてそだてあげ、てふよ花まきもてはやし、かかるめでたきおりからに、あくまうどんがとんで出て、やくみからみをぬかすなら、大こんおろしでおろしつけ、したじの中へさらりさらり。