フレデリック・フォーサイス『アヴェンジャー』
昭和生まれでイギリスかぶれだから、ミステリーはジェームズ・ボンドとフレデリック・フォーサイスで事足りている。他にも読んでみたい作家はいるし優れた作品はたくさんあるだろうけれども、どの作品でも安心して楽しめ、何回でも読むことができる作家になかなか出会わない。そういう作家を見つける能力は10代から20代にかけて築かれて、年を取るとその時期に形成された能力を稼働しながら本を読むのだろう。より正確に言うと、10代から20代にかけて集中的に読んだ作家が読書の趣味を作り、その趣味で一生を過ごすといってもいいのかもしれない。だから人間は老いると読書の趣味がずれて年寄り臭くなるのだろうか。年寄り臭い読書の趣味になるのは少し悲しいけれども、流行に合わせて自分が好きでない本(たとえば『ダヴィンチ・コード』)を楽しんでいるふりをするのはもっと哀しいから、黙ってフォーサイスやボンドものを読んでいる。
昭和生まれでイギリスかぶれだから、ミステリーはジェームズ・ボンドとフレデリック・フォーサイスで事足りている。他にも読んでみたい作家はいるし優れた作品はたくさんあるだろうけれども、どの作品でも安心して楽しめ、何回でも読むことができる作家になかなか出会わない。そういう作家を見つける能力は10代から20代にかけて築かれて、年を取るとその時期に形成された能力を稼働しながら本を読むのだろう。より正確に言うと、10代から20代にかけて集中的に読んだ作家が読書の趣味を作り、その趣味で一生を過ごすといってもいいのかもしれない。だから人間は老いると読書の趣味がずれて年寄り臭くなるのだろうか。年寄り臭い読書の趣味になるのは少し悲しいけれども、流行に合わせて自分が好きでない本(たとえば『ダヴィンチ・コード』)を楽しんでいるふりをするのはもっと哀しいから、黙ってフォーサイスやボンドものを読んでいる。
『アヴェンジャー』は、初めて読む作品だが、やはりフォーサイスらしいお話で、ベトナム戦争―旧ユーゴスラビアの内戦―アフガニスタンのアルカイダを背景にして、南アメリカのバナナ・リパブリックの個人の要塞を吸収する国際スパイものである。もちろん暴力であり苦痛であり闇の世界であるが、その中での「ビジネス」の雰囲気を持っているのが特徴である。フォーサイスの他の作品も、『ジャッカルの日』のドゴール暗殺であれ、『戦争の犬たち』のアフリカの小国でのクーデターであれ、主人公たちは国際的な舞台における複雑な仕掛けを操作するビジネスに携わっている。特製の銃、パスポートの偽造、通信の授受といった一つ一つの仕事が、それぞれの国で行われて、それらがまとめられて国際的なプロジェクトになり、何か大きな仕事が成し遂げられるという構造である。実際に国際的なビジネスをしているビジネスマンだけでなく、私たちのような学者にとっても、身につまされる気分になりながら、現実の生活にはない爽快さや達成感を味わうことができる話になっている。