松井冬子が美術史家の山本聡美と一緒に九相図を観るという企画を『芸術新潮』の10月号で読む。死と性と怪異を描いて今を時めく美人日本画家だから、日本の死と腐乱の絵画の古典にどう向き合うかとても興味があったが、正直言って、松井さんの発言は断片的で技術的な内容・直観的な印象論が多くて、必ずしもいい記事になっていなかった。しかし、松井さんに九相図を案内する役割の山本聡美さんという美術史家の記事や発言が、学者らしい知識と洞察の厚さをうまく表現していて、とても面白かった。
九相図という表現形式では腐乱し白骨化していく死体として描かれているのは女性のものであった。女性の生きた肉体や死体の穢れた様子を見て男性が発心する説話の構造が写されていた。これは女性と穢れの結びつきを意味するが、女性には男性の発心を誘発する気高さと信仰心の篤さも存在した。男性である修行者はあくまで他者として女性の死体をまなざしたのに対し、女性は九相図の中に自己を見出していたという。少し調べたら、山本は九相図についての大きな書物を2009年に出したとのこと。まず借りてみて、よさそうならば、とても高価な本だけれども買ってみよう。
松井と山本が並んで撮った写真の背後に「病の草紙」から作られた掛け軸が三つ掛っていた。きっと九州国立博物館のものだと思うけれども、あれはなんだろう。九相図と病草紙はセットにするものなのかしら?