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Channel: 身体・病気・医療の社会史の研究者による研究日誌
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ネズミの人口密度と大都会の心理学

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同じく新着の Isis から、20世紀中葉の心理学の実験の優れた分析を読む。

2nd: Ramsden, Edmund, “From Rodent Utopia to Urban Hell: Population, Pathology, and the Crowded Rats of NIMH”, Isis, 102(2011), 659-688.
1950年代にボルティモアの国立精神衛生研究所(NIMH)で行われた研究の意味と影響の分析。John B. Canhoun なる生態学者が行った実験は、ネズミの人口密度が高い状態を作り出し、それがネズミの行動に与える影響の分析を通じて、大都市における人間の行動の問題(たとえば、暴力、カニバリズム、性的逸脱、引きこもりなど)を社会病理として捉える視角を作り上げるものであった。この研究に対して好意的に反応して、ネズミの社会から人間の社会への議論を移行させることを許して、人間が高密度で群衆生活をすることの危険を唱えた学者もいたし、単純な同一化をいましめて、大都市の貧民の問題を「密度」という指標で一元的にとらえることに批判的な学者もいた。カルホウンの研究は、技術的な事物を通じて新しい事実を作り上げ、新しい認識論上の事物 (epistemic things) を作り出すことができる、多産な実験システムであった。実験場において作り出されたネズミの「街」の条件を変えることで、新しい状況をつくりだし、それと科学者の認識が常に交錯して新しい問題が作り出されていた。

この実験が公表されると、その成果は、大都市の危険や恐怖が透けて見えるようなどぎつい言葉を用いて取り上げられた。「非母性的な母」「同性愛」「ゾンビ[のように徘徊するネズミ]」「犯罪階級」「アパシーのストリート・ファイター」などである。この時期は、アメリカの大都市の貧困と道徳的退廃が問題になっていた時期であり、その一方、動物行動学においても、ローレンツの「攻撃」がハトの激しい攻撃と禁止の不在を取り上げて、人間の攻撃についての考察を行っていた。ラットという動物の選択も、現代社会のトーテム的な動物がいるとしたら、それは集団行動をして多産なラットであった。この研究は社会学者、心理学者の注目をあび、カルホウンのモデルを使って、学寮のドーミトリーや、刑務所における「群居」が与える影響が研究された。

画像は本論文より。

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